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第12章 · テクノロジ

最後の説明は、葵が担当する。

試行前の確認から、東工場での運用、引継ぎへ。「安全です」だけでは、現場は困ったときに動けません。葵は全社のセキュリティ体制と今回の連携をつなぎ、残る課題、連絡と復旧の役割を、自分の言葉で説明します。

5つのテーマ28項目22の図解
この章の目次・学習項目

この章も、新卒コンサルタントの葵と先輩の佐伯が、大手メーカー「アステラ製作所」の受注・生産・出荷をつなぐ案件に取り組みます。

会話と図解で読み進め、詳しい説明は各項目で開けます。

01
守るのは、機械だけではない

守るものを、葵から説明する

情報資産とリスクを、実際の業務から洗い出す。

試行前レビュー|情報システム・業務・セキュリティ担当

佐伯に説明を任され、葵は受注情報が渡る先を示した。画面、データベース、メール、そして検品台の紙。そこには取引先名、数量、納期、担当者の連絡先がある。

森川
事業部長

どこが止まると、取引先への約束に影響しますか。まず、そこから聞かせてください。

初回は、営業から届く変更表すら図に入っていなかった。今は誰が使い、何が起きると困るかを話せる。

新卒ITコンサルタント

情報が漏れること、数量が変わること、出荷時に開けないことを分けました。全社の既存ルールに、今回の連携で追加する確認を対応させています。

脅威・脆弱性

攻撃だけでなく、停電、誤操作、紙の置き忘れも並べた。葵は脅威と、その被害につながる弱点を分けて考えた。

脅威は被害を起こす要因、脆弱性はつけ込まれる弱点。対策を決めるには、両方を見る。

01危険の原因と、付け込まれる弱点
脅威悪影響をもたらす原因・事象
盗難、火災、不正アクセスなど
脆弱性被害につながり得る弱点
未修正の欠陥、弱い管理、無施錠など
物理的脅威
火災、地震、盗難など、物理的な被害を起こすもの。
人的脅威
誤操作、情報の持ち出し、だまされて秘密を渡すことなど。
技術的脅威
マルウェア、通信の盗聴、システムへの攻撃など。
詳しい説明・条件・具体例

情報セキュリティは、情報やシステムなどの情報資産を守るための考え方と活動です。外部からの攻撃だけでなく、災害、故障、誤操作、内部の不正も対象になります。

物理的脅威
火災、地震、盗難など、物理的な被害を起こすもの。
人的脅威
誤操作、情報の持ち出し、だまされて秘密を渡すことなど。
技術的脅威
マルウェア、通信の盗聴、システムへの攻撃など。

脆弱性はソフトウェアのバグだけではありません。連絡先が不明な運用や、だれでも入れる保管場所も弱点になります。

新卒ITコンサルタント

守る対象を挙げたら、画面の中だけでは済みませんでした。この紙にも取引先名と担当者の連絡先が残っています。

小野
生産管理責任者

忙しいと、ここへ置いてしまいますね。誰でも見える場所です。

新卒ITコンサルタント

置き忘れなどの脅威と、それが被害につながる保管の弱点を分けて考えます。製品を足す前に、どう情報が漏れるかを確かめたいです。

ソーシャルエンジニアリング

「急いでいるので確認を省いて」と言われたらどうするか。葵は以前、前任者のアカウントを渡された場面を思い出した。

人の心理や行動を利用して、情報を盗むなどの手口。「急いで」と言われても、相手を確かめる。

02画面の外でも、情報は漏れる
トラッシング廃棄物をあさり、機密文書などを探す
ショルダーハック肩越しなどから画面や入力内容をのぞく
詳しい説明・条件・具体例

ソーシャルエンジニアリングは、人の心理や行動の隙を使って情報を得るなどの手口です。「急いでいる」「責任者の指示だ」と言って、確認を省かせようとする場合があります。

偽のメールやサイトへ誘導して認証情報などを盗むフィッシングにも注意します。見た目や差出人名だけで判断せず、普段使う連絡先など別の経路で確認する習慣が役立ちます。

人の心理や行動を利用する手口は、技術の外にもある。廃棄文書、のぞき見、偽の連絡に対する確認を、現場の手順に入れた。

機密性・完全性・可用性(CIA)

機密性、完全性、可用性を、名簿の漏えい、数量の書換え、出荷時の停止へ対応させた。

許可された人だけが見られる、正しく保たれる、必要なときに使える。この3つを守る。

03情報を守る、三つの軸
機密性 C許可された人だけが使える
完全性 I正確で、勝手に変えられていない
可用性 A必要なときに利用できる
真正性
主張する主体や情報が本物であること。
責任追跡性
誰が何をしたかを追跡できること。
否認防止
実行や送信などの事実を、後から否定されにくくすること。
信頼性
意図した動作や結果を、一貫して提供すること。
詳しい説明・条件・具体例

Confidentiality、Integrity、Availabilityの頭文字です。受注名簿が漏れないのは機密性、数量が書き換わらないのは完全性、出荷時に一覧を開けるのは可用性に関わります。

真正性
主張する主体や情報が本物であること。
責任追跡性
誰が何をしたかを追跡できること。
否認防止
実行や送信などの事実を、後から否定されにくくすること。
信頼性
意図した動作や結果を、一貫して提供すること。
森川
事業部長

情報を外へ出さないことが、一番大事だと思っていました。

新卒ITコンサルタント

名簿の機密性は大切です。同時に、受注数が正しい完全性と、出荷時に開ける可用性も必要です。

小野
生産管理責任者

誰が数量を変えたかも、後で分かるようにしたいですね。

新卒ITコンサルタント

責任追跡性ですね。本物の相手か、行為を後から確かめられるか、意図どおりに動くかも含め、七つの性質を確認の観点にします。

ISMS

対策を入れた時点で完了にしないため、計画、実行、評価、改善の担当と周期を決めた。

情報セキュリティを組織で管理し、計画・実行・点検・改善を繰り返す仕組み。

04点検の結果を、次の計画へ戻す
計画、実行、評価、改善を時計回りにつなぎ、改善から次の計画へ戻るPDCAサイクル。P|計画D|実行C|評価A|改善対策を決めて終わりにしない
JIS Q 27000
ISMSの概要や用語を扱います。
JIS Q 27001
ISMSに対する要求事項を定め、認証の基準になります。
JIS Q 27002
情報セキュリティの管理策に関する指針を示します。
詳しい説明・条件・具体例

ISMSはInformation Security Management System、情報セキュリティマネジメントシステムです。組織がリスクを管理し、方針・責任・手順・評価を整えて継続的に改善する仕組みで、単一の製品ではありません。

JIS Q 27000
ISMSの概要や用語を扱います。
JIS Q 27001
ISMSに対する要求事項を定め、認証の基準になります。
JIS Q 27002
情報セキュリティの管理策に関する指針を示します。

計画は目標と対策を決める段階、実行は運用する段階、評価は記録や結果を確認する段階、改善は問題を是正して見直す段階です。例えば「ログを点検してルールが守られたか確認」は評価に当たります。

小野
生産管理責任者

手順書ができたので、これで運用を始められますね。

新卒ITコンサルタント

はい。それから、使ってみて直す担当と時期も決めたいです。

小野
生産管理責任者

実際に使うと、書いてあるとおりにできないことも出そうです。

新卒ITコンサルタント

その記録を次の見直しへ戻しましょう。ISMSを一つの製品と思わず、計画、実行、評価、改善を続ける仕組みとして動かします。

ISMS適合性評価制度・ISMSクラウドセキュリティ認証

クラウド事業者の認証マークを、葵は安心の結論ではなく、対象範囲を確認する入口にした。

第三者が規格への適合を確かめる。クラウド固有の管理策を対象にする認証もある。対象範囲を確認する。

詳しい説明・条件・具体例

ISMS適合性評価制度では、組織が構築・運用するISMSを第三者が審査し、規格への適合を認証します。認証対象の範囲も確認することが大切で、すべての製品や取引の安全を無条件に保証するものではありません。

ISMSクラウドセキュリティ認証は、ISMS認証に加え、ISO/IEC 27017に基づくクラウド固有の管理策などを対象とする認証です。クラウドの提供者・利用者双方の立場を扱い、責任分担や設定などのリスクを管理します。

認証が何を対象にするかと、今回の設定・利用方法で何を守るかは別に確認する。無事故の保証のような説明をしなかった。

リスクマネジメント

見つけたリスクを、起きやすさと影響、対応の必要性で整理した。葵は全件に同じ高価な対策を付けなかった。

リスクを調べ、低減・回避・移転・受容などの対応を選ぶ。すべてをゼロにはできない。

05アセスメントの後に、対応を決める
特定何が起き、どの資産が影響を受けるか
分析起きやすさと影響を見積もる
評価基準と比べ、対応の優先度・必要性を判断する
対応対策を選び、実施する
06四つの対応を、組織の判断へ置き換える
回避不要な機密情報を収集しない
低減多要素認証で不正ログインのリスクを下げる
移転・共有保険や契約で損失を分担する
保有残るリスクを把握し、受け入れる
詳しい説明・条件・具体例

特定・分析・評価をまとめてリスクアセスメントと呼びます。それを含め、リスクを管理する活動全体がリスクマネジメントです。

保険へ加入しても、攻撃そのものや責任が消えるわけではありません。対策後の残留リスクも確認し、受け入れる権限を持つ人が判断します。

高橋
経理担当

すべて同じ対策を付けると、予算を超えてしまいます。どこから考えましょうか。

新卒ITコンサルタント

起きやすさと影響を整理して、対応が必要な順に相談します。回避、低減、移転・共有、保有を使い分けます。

高橋
経理担当

保険を使う案なら、対策を減らせる部分もありますか。

新卒ITコンサルタント

保険で損失を分担しても、攻撃や責任がなくなるわけではありません。残るリスクを説明して、受け入れる権限のある方に判断していただきます。

情報セキュリティポリシー

「顧客情報を大切にする」を、離席時の画面ロックや紙の保管の手順へ落とした。

基本方針から、対策基準、具体的な実施手順へ。現場で何をするかまで決める。

07抽象的な方針から、具体的な動作へ
基本方針お客さんの情報を、適切に守る
対策基準離席時は画面をロックする
実施手順使う端末でのロック操作と、確認方法を示す
詳しい説明・条件・具体例

組織の情報セキュリティ方針やルールが情報セキュリティポリシーです。基本方針・対策基準・実施手順の階層で整理する考え方があります。ISMSという管理の仕組みの中で、組織の状況に合った方針や基準を運用し、見直します。

田中
物流担当

「離席したらロックする」は分かりました。この端末だと、どこを押せばいいですか。

新卒ITコンサルタント

そこまで手順に必要ですね。使う端末で一緒に操作して、確認の仕方も残します。

田中
物流担当

新しく入る人にも、その手順で伝えられます。

新卒ITコンサルタント

方針から基準、実施手順までつながる形にしましょう。「大切にする」と書くだけで終わらないようにします。

対策がそろっていない項目もあった。葵は隠さず、担当者と期限、残るリスクをどう判断するかを確認した。全部を「安全」と言うより、何を守れて何が残るかを説明するほうが、責任のある報告だった。

ちょっと考えてみよう受注データを外部に見せないこと、数量を正しく保つこと、必要時に開けること。それぞれCIAのどれ?考え方をひらく +

順に、機密性・完全性・可用性です。一つだけでなく、三つをバランスよく守る必要があります。

02
「変なファイルを開かない」だけでは足りない

怪しいメールを見つけた人が、黙らない職場に

攻撃を知り、発見と報告の手順を作る。

試行前の訓練|不審な連絡への対応

訓練で、不審な添付ファイルを開きそうになった田中が口を閉じた。葵はその様子に気付き、手を止めた。

田中
物流担当

変だと思ったんですが、開きかけたと言ったら怒られるかもしれないと考えてしまって。

葵は、自分の計算ミスを報告するときの緊張を思い出した。

新卒ITコンサルタント

気付いた時点で連絡できるように、報告する相手と最初の行動を分かりやすくしましょう。隠れてしまうほうが、被害が広がります。

小野
生産管理責任者

迷った段階で相談してください。まず連絡してもらえるように、工場の説明の仕方も変えます。

田中
物流担当

開いたか分からない場合も、相談していいんですね。それなら、最初に連絡できそうです。

マルウェア・セキュリティパッチ

マルウェアの種類を、何をされるかで分けた。暗号化されて使えない、情報を盗まれる、不正操作を隠されるなど、被害の形は違う。

マルウェアは悪意のあるソフトウェア。パッチは弱点などを修正する更新。修正前を狙う攻撃にも備える。

ランサムウェア
ファイルを暗号化するなどして利用不能にし、金銭を要求するもの。
ボット
感染した機器を、外部から不正に操作するプログラム。
トロイの木馬
有用なものなどに見せかけ、裏で不正な動作を行うもの。
スパイウェア
利用者の情報などをひそかに収集するもの。
ルートキット
侵入や不正な活動を隠し、権限の維持などに使われる道具のまとまり。
詳しい説明・条件・具体例

有害な動作を行うソフトウェアの総称がマルウェアです。セキュリティパッチは、OSやアプリの脆弱性を修正する更新プログラム。ウイルス対策ソフトなどは、不正なファイルや振る舞いを検知・遮断します。どちらか一つで十分という関係ではありません。

ランサムウェア
ファイルを暗号化するなどして利用不能にし、金銭を要求するもの。情報の窃取や公開を材料に脅す場合もあります。
ボット
感染した機器を、外部から不正に操作するプログラム。多数の機器がボットネットを構成することがあります。
トロイの木馬
有用なものなどに見せかけ、裏で不正な動作を行うもの。
スパイウェア
利用者の情報などをひそかに収集するもの。
ルートキット
侵入や不正な活動を隠し、権限の維持などに使われる道具のまとまり。バックドアやログの改ざんに関わるものもあります。

パッチと対策ソフトを同じ役割にせず、感染後の隔離や証拠保全、復元まで含めて相談先を決めた。

パスワード攻撃

長いパスワードを全サービスで共通に使う案が出た。葵は、別のサービスから漏れた組を使われる場合を説明した。

総当たり、辞書、流出したIDとパスワードの再利用などがある。長さだけでなく、使い回しも見直す。

08狙われ方によって、対策の理由も違う
手口何を試すか
辞書攻撃よく使われる単語などを候補にする
総当たり攻撃文字の組合せを次々に試す
パスワードリスト攻撃別の場所から漏れたIDとパスワードの組を試す
詳しい説明・条件・具体例

十分に長く推測されにくいパスワードを使い、サービスごとに使い分けます。管理ツールの活用や多要素認証も検討します。提供者側では試行回数の制限や異常検知などが重要です。

小野
生産管理責任者

長いパスワードを一つ覚えて、全部で使えばよいと思っていました。

新卒ITコンサルタント

別のサービスからその組が漏れると、長さに関係なく試されてしまいます。使い分けが必要です。

井上
開発会社のPM

辞書や総当たり、漏れたリストを使う攻撃では、狙う弱点が違います。試行の制限も、提供する側で考えます。

新卒ITコンサルタント

多要素認証も含め、違う弱点に備える対策を組み合わせましょう。

DoS・DDoS

大量のアクセスで使えなくなる場合、工場の端末だけを守っても足りない。葵はDoSとDDoSの違いを確認した。

サービスを使えなくする攻撃。DDoSは、多数の場所から分散して攻撃する。

09攻撃元が分散するかどうか
DoS資源を消費させるなどして、サービスを利用不能にする
DDoS複数の機器などから、分散してDoS攻撃を行う
詳しい説明・条件・具体例

大量の要求で負荷をかけるのは代表例です。DDoSではボットネットが使われることがありますが、それだけに限りません。利用不能は可用性への被害です。回線や配信基盤側の対策、通信制御、監視、対応体制などを組み合わせます。

回線や配信側との対策、監視、連絡が必要になる。可用性への攻撃として、業務の代替手順にもつなげた。

DNSキャッシュポイズニング・XSS・MITB

偽の名前解決、ブラウザ内の改ざん、Webの不備、未修正の脆弱性。葵は攻撃が成立する場所へ、対策の担当を対応させた。

名前の案内を偽る、ページに不正なスクリプトを混ぜる、ブラウザ内で取引を変える。狙う場所が違う。

ドライブバイダウンロード
Web閲覧などをきっかけに、弱点を突いて不正プログラムを取り込ませる手口。
ゼロデイ攻撃
修正が提供される前など、十分な対処が整っていない脆弱性を悪用する攻撃。
DNSキャッシュポイズニング
DNSのキャッシュに偽の情報を混入させ、正しい名前から不正な宛先へ誘導する手口。
クロスサイトスクリプティング(XSS)
Webアプリの不備などを利用し、利用者のブラウザで攻撃者のスクリプトを実行させる手口。
MITB攻撃
ブラウザ内に入り込み、送信する取引内容などを不正に書き換える攻撃。
詳しい説明・条件・具体例
ドライブバイダウンロード
Web閲覧などをきっかけに、脆弱性を悪用して利用者が意図しない不正プログラムを取り込ませる手口。
ゼロデイ攻撃
修正が提供される前など、十分な対処が整っていない脆弱性を悪用する攻撃。
DNSキャッシュポイズニング
DNSのキャッシュに偽の情報を混入させ、正しい名前から不正な宛先へ誘導する手口。URLと偽ドメインを単に結び付けるという意味ではありません。
クロスサイトスクリプティング(XSS)
Webアプリの不備などを利用し、利用者のブラウザで攻撃者のスクリプトを実行させる手口。
MITB攻撃
Man-in-the-Browser。ブラウザ内の不正プログラムなどが、表示や送信内容を改ざんする攻撃。送金先の書換えなどが被害になります。

Web側の安全な入力・出力処理、端末の保護、更新、適切な通信や名前解決の保護など、攻撃が成立する場所に応じて対策します。

XSS、MITB、ゼロデイなどの名称を、怖い言葉の一覧で終わらせない。どこを直し、どこで気付き、誰へつなぐかを確認した。

ポートスキャン・フットプリンティング

検査の依頼では、対象、許可、時間、方法の範囲を確認した。調べるだけだから無断でよい、とは扱わなかった。

開いているポートや公開情報を調べる。正当な調査でも、システムの検査は許可と範囲を守る。

詳しい説明・条件・具体例

ポートスキャンは、開いているポートや応答などを調べる行為です。フットプリンティングは、公開情報などから組織やシステムの情報を集め、全体像を把握することです。攻撃の準備に使われる一方、防御側の調査にも関係します。

ポートスキャンや公開情報の調査が何を示すかを知り、許可された検証の結果を、対策と判断へ結び付けた。

攻撃の名前を知るだけでなく、更新、検知、制限、報告、隔離、復元の役割を組み合わせた。葵は、技術と人の行動がそろわないと運用にならないことを、何度も確かめていた。

ちょっと考えてみよう別サービスで漏れたIDとパスワードを試される攻撃に、特に直接効く習慣は?考え方をひらく +

パスワードを使い回さないことです。さらに多要素認証などを組み合わせ、漏えいした一つの秘密だけでは入れないようにします。

03
秘密にする鍵と、本物だと確かめる鍵

鍵の持ち主を、逆に描いていた

秘密にすることと、本物を確かめることを分ける。

設計説明の準備|通信と証明書のレビュー

葵の説明図で、送る人の公開鍵が暗号化に使われていた。佐伯はすぐに直さず、「この注文を読めてほしいのは誰?」と聞いた。

新卒ITコンサルタント

受け取る人です。受け取る人の秘密鍵でしか開けられないようにするなら、その人の公開鍵を使うんですね。

自分で矢印を直すと、署名で確かめるときの鍵の向きも、違う目的から整理できた。

盗聴・改ざん・なりすまし

読まれる、書き換えられる、別人を装われる。葵は防ぎたいことを三つに分けた。

中身を盗み見る、書き換える、別人を装う。暗号化だけで、すべてに対応できるわけではない。

10守りたい性質が違う
盗聴途中で内容を読まれる
改ざん内容を勝手に変えられる
なりすまし別の主体が本人のふりをする
詳しい説明・条件・具体例

暗号化は、平文を鍵などを使って暗号文へ変換することです。暗号文から平文へ戻す操作が復号。復号できない第三者に内容を読まれないようにして、機密性を保ちます。

暗号方式の仕組みを秘密にするだけではなく、適切な方式と鍵の管理で安全性を支えます。単純な文字ずらしは考え方の練習にはなりますが、現実の重要情報を守る方式には向きません。

新卒ITコンサルタント

暗号化されているから正しい情報、と言うのは違いますね。偽の内容が暗号化されている場合もあります。

佐伯
先輩ITコンサルタント

読まれないこと、変えられていないこと、相手が本物であること。別々の問いとして考えてみよう。

新卒ITコンサルタント

何を防ぎたいのかを分けてから、暗号化や署名の役割を説明します。

共通鍵暗号方式

共通鍵を使う場合、相手へその秘密をどう安全に共有するかが課題になる。葵は暗号文と同じ無保護の経路へ鍵を置く案を外した。

暗号化と復号に同じ鍵を使う。処理は速いが、その秘密の鍵を安全に共有する必要がある。

11同じ鍵で、変換して戻す
送る側共通鍵Kで、平文を暗号化する
受け取る側同じ共通鍵Kで、暗号文を復号する
詳しい説明・条件・具体例

共通鍵暗号方式は、暗号化と復号に同じ鍵を使います。大量のデータを効率よく処理できますが、鍵を安全に共有する必要があります。暗号文と鍵を、保護されていない同じ経路で一緒に渡しては意味がありません。

相手ごとに別の鍵を持つと、相手が増えるほど管理が複雑になります。n人全員が各組で異なる共通鍵を持つ単純なモデルなら、必要な鍵はn(n−1)÷2個です。4人なら6個になります。

相手が増えたときの管理も含めて、方式の条件を確認する。処理が速いことと、鍵の扱いが簡単なことは同じではなかった。

公開鍵暗号方式

受信者の公開鍵で暗号化し、その人の秘密鍵で復号する。葵は各鍵の持ち主を名前で書いて確認した。

受信者の公開鍵で暗号化し、受信者の秘密鍵で復号する。秘密鍵は本人だけが保管する。

12鍵の持ち主は、受け取る人
機密性のための公開鍵暗号。送信者は受信者の公開鍵で暗号化し、受信者は自分だけが持つ秘密鍵で復号する。送る人受け取る人受信者の公開鍵で暗号化自分の秘密鍵で復号暗号文は送る。秘密鍵は送らない。
詳しい説明・条件・具体例

秘密の注文情報を太郎さんへ送る

  1. 太郎さんが、公開鍵と秘密鍵のペアを用意する。
  2. 花子さんは、太郎さん本人のものと確認できた公開鍵を入手する。
  3. その公開鍵で暗号化し、暗号文を送る。
  4. 太郎さんだけが保管する秘密鍵で復号する。

公開鍵は他の人に知らせてよい鍵、秘密鍵は本人が厳重に保管する鍵です。公開鍵から秘密鍵を現実的に求められないことなどが安全性を支えます。鍵の公開は、正当な持ち主との対応の確認まで不要にするわけではありません。

新卒ITコンサルタント

佐伯さんだけに読んでもらうなら、佐伯さんの公開鍵で暗号化します。開けるのは佐伯さんの秘密鍵ですね。

佐伯
先輩ITコンサルタント

その公開鍵が、私のものだとはどう確かめる?

葵は、鍵の持ち主を書いたメモの横に、もう一つ疑問を書いた。

新卒ITコンサルタント

公開してよい鍵でも、持ち主の確認は要るんですね。そこは証明書の話につなげて確認します。

ハイブリッド暗号方式

大きな本文と鍵の共有で、同じ方式を使う必要はない。葵はハイブリッド方式の役割分担を整理した。

公開鍵の仕組みなどで安全に鍵を共有し、本文は速い共通鍵暗号で守る。

13データ本体と、鍵の受渡しを分ける
データ本体高速な共通鍵暗号で保護
鍵の共有・確立公開鍵の技術を使って安全に行う
詳しい説明・条件・具体例

共通鍵を公開鍵で包んで送るモデル

  1. 送信者が、データを保護するための共通鍵を用意する。
  2. 本文を共通鍵で暗号化する。
  3. 共通鍵を、受信者の公開鍵で暗号化して送る。
  4. 受信者が秘密鍵で共通鍵を取り出し、その共通鍵で本文を復号する。

共通鍵暗号は比較的高速、公開鍵暗号は鍵の共有や認証に役立つ一方、計算が重いという特徴を組み合わせます。実際のTLSなどでは鍵交換で共通の秘密を確立する方式もあり、上のモデルと常に同じ手順で共通鍵を送るわけではありません。

説明用の共通鍵配送モデルと、実際のTLSなどで鍵を確立する方法を混同しない。どの方式が使われているかを、担当者へ確認した。

ハッシュ関数

ハッシュ値を「元へ戻せる短い暗号」と呼びかけて、葵は言い直した。

データから一定長の値を作る。暗号文を元へ戻す復号とは違い、元のデータを取り出すためのものではない。

14暗号学的ハッシュで重視する性質
同じ入力なら同じ値同じ関数で計算すれば結果は一致する
異なる入力の衝突を見つけにくい同じ値になる入力の組を容易に作れない
元の入力を求めにくい値から入力を現実的に逆算しにくい
復号はしない元へ戻すための鍵や復号操作ではない
詳しい説明・条件・具体例

ハッシュ関数は、データから一定の長さの値を計算する関数です。得られる値をハッシュ値、メッセージダイジェストと呼びます。例えば「文字数を10で割った余り」は変換の練習にはなりますが、同じ値を簡単に作れるので安全な暗号学的ハッシュではありません。

有限長の値なので、異なる入力が同じハッシュ値になる衝突自体は存在します。「絶対に重複しない番号」ではありません。安全性は、衝突などを実用的な時間で見つけにくいことにあります。

新卒ITコンサルタント

ハッシュ値から元の情報を戻す、という説明はできませんね。復号のための短い暗号ではない。

井上
開発会社のPM

はい。同じ方式なら同じ入力は同じ結果になりますが、有限の長さなので、異なる入力が一致する衝突は存在します。

新卒ITコンサルタント

一致したという結果が何を意味するかも、使い方と合わせて説明します。

ハッシュ値・改ざん検出

本文とハッシュ値を一緒に送れば十分か。佐伯は「両方変えられたら?」と聞いた。

正しいハッシュ値と比べて変更を確かめる。比較する値まで偽られたら、検出できない。

15届いたデータから、もう一度計算する
信頼できるハッシュ値を用意安全な経路や署名などで、基準の値を確かめる
受け取ったデータをハッシュ化同じハッシュ関数で計算する
比較する違えば、内容が異なると分かる
詳しい説明・条件・具体例

攻撃者が本文と添付のハッシュ値を両方置き換えられるなら、単なる比較では防げません。検知に使う値の真正性も必要です。また不一致の原因は悪意ある改ざんとは限らず、破損や処理の違いなども考えられます。

新卒ITコンサルタント

本文とハッシュ値が一致したので、これで改ざんの確認は十分だと思いました。

佐伯
先輩ITコンサルタント

誰かが本文を変えて、ハッシュ値も計算し直していたら?

新卒ITコンサルタント

両方を差し替えられたら、一致してしまいますね。比較する基準を信頼できることも必要でした。

佐伯
先輩ITコンサルタント

その条件まで説明できれば、ただ値を比べる作業から一歩進めるね。

デジタル署名

署名は作成者の秘密鍵で作り、作成者の公開鍵で検証する。葵は暗号化の図と並べ、誰を確かめたいかから説明した。

作成者の秘密鍵で署名し、対応する公開鍵で検証する。作成者の確認と改ざんの検出に使う。

16署名の鍵の持ち主は、作成者
デジタル署名。作成者の秘密鍵で本文に対する署名を生成し、確認者は作成者の公開鍵と本文を使って検証する。暗号化の鍵の役割と混同しない。作成者確認する人作成者の秘密鍵で署名を生成作成者の公開鍵で署名を検証送るもの:本文と署名本文を秘密にする機能は別に必要

更新ファイルの署名を確認する手順について、今度は葵が説明する番だった。佐伯が、わざと前のページの暗号化の図を指した。

佐伯
先輩ITコンサルタント

相手の公開鍵を使う、とだけ覚えたら混乱しそうだね。

新卒ITコンサルタント

何を確かめたいかで分けます。この署名では作成者を確かめたいので、作成者の公開鍵で検証します。署名を作るのは、その人の秘密鍵です。

新卒ITコンサルタント

それだけで本文が秘密になるわけではありません。読まれないようにする暗号化とは、目的を分けて説明します。

佐伯はうなずいて、説明役を代わらなかった。葵は次に、証明書で公開鍵の持ち主を確かめる話へ進んだ。

17鍵の向きを、目的で比べる
目的使う鍵
秘密の本文を送る受信者の公開鍵で暗号化 → 受信者の秘密鍵で復号
作成者を確かめる作成者の秘密鍵で署名 → 作成者の公開鍵で検証
詳しい説明・条件・具体例

デジタル署名は、本文と結び付いた署名を秘密鍵で生成し、対応する公開鍵で検証する仕組みです。多くの方式は本文のハッシュを利用します。正当な公開鍵との対応を確認したうえで、内容の改変や、署名した主体の確認に役立てます。

署名だけでは本文を隠せません。盗聴への対策には暗号化も必要です。署名の検証失敗を検知した後は、安全な処理中止や調査などにつなげます。「再送すれば必ず解決する」わけではありません。

小野
生産管理責任者

署名を付けた書類は、ほかの人には読めないのですか。

新卒ITコンサルタント

署名だけでは本文を隠せません。作成者の秘密鍵で署名を作り、その人の公開鍵で検証する仕組みです。

小野
生産管理責任者

検証できなかったら、そのまま使わず連絡する、という扱いでよいでしょうか。

新卒ITコンサルタント

はい。その後の中止や連絡まで手順にしましょう。秘密に送る暗号化とは、目的を分けて説明します。

PKI・デジタル証明書・認証局

その公開鍵が本人のものだと、どう確かめるか。葵は証明書の対象名、有効期間、署名の連鎖、信頼の起点を追った。

認証局が、公開鍵と持ち主の対応を証明する。鍵が正しくても、持ち主を取り違えると危険。

18証明書のつながりをたどって検証する
サイトなどの証明書対象の名前と公開鍵などを含む
発行したCAの署名を確認必要に応じて、中間CAの証明書をたどる
信頼の起点へあらかじめ信頼したトラストアンカーまでつながるか確認
詳しい説明・条件・具体例

PKIはPublic Key Infrastructure、公開鍵基盤です。公開鍵と主体の対応を確認する仕組みを支えます。CA(認証局)は、所定の確認を行い、その対応を示すデジタル証明書を発行します。

署名のつながりだけでなく、対象名、有効期間、失効なども確認します。最上位だから数学的に無条件で安全という意味ではありません。トラストアンカーは、OSやブラウザの管理などを通じて、あらかじめ信頼する起点として設定されたものです。

新卒ITコンサルタント

CAが発行したものなら、それだけで通してよいわけではないんですね。

井上
開発会社のPM

対象名や有効期間、失効、署名のつながりも確認します。信頼の起点へ正しくたどれるかが必要です。

新卒ITコンサルタント

名前を知っていることではなく、正しい対象の証明書として検証できる条件を、設計の確認事項にします。

葵は暗号化、ハッシュ、署名、証明書を一つの「安全な通信」に押し込めず、それぞれが何を確かめるか説明した。分からないまま整った図を出す癖から、少し離れられた。

ちょっと考えてみよう佐伯だけに読めるよう送るときと、葵が書いたことを署名で示すとき。最初に使うのは誰のどの鍵?考え方をひらく +

暗号化には受信者である佐伯の公開鍵。署名の生成には作成者である葵の秘密鍵です。署名の検証には葵の公開鍵を使います。

04
入口の鍵を、一枚だけに頼らない

内部に入れた人を、全員信頼していい?

通信を制限し、被害が広がる範囲を抑える。

最終構成レビュー|公開領域と業務領域

来客用Wi-Fi、公開サーバ、業務の記録。葵はつながりを示した図へ、通してよい通信だけを書き込んだ。「内部なら安全」とだけ書いてあった説明は消した。

井上
開発会社のPM

この接続は業務に必要ですが、こちらは通す必要がありません。許可する通信と、監視する場所を図で確認しましょう。

佐伯
先輩ITコンサルタント

境界を越えた後も、必要な権限と監視は残るんだね。

新卒ITコンサルタント

はい。一つ侵害されたとき、どこまで広がるかも確認します。

ファイアウォール・IDS・IPS・WAF

ファイアウォール、IDS、IPS、WAFを、何を見るかと、検知か遮断かで整理した。

通信を制御する、侵入を検知する、防御する、Webアプリへの攻撃を防ぐ。得意な対象が違う。

19目的の違う対策を、重ねて使う
仕組み主な役割
ファイアウォールアドレス、ポート、通信の状態などのルールで通過を制御
IDS侵入や不審な通信を検知し、通知する
IPS検知に加え、攻撃と判断した通信を遮断する
WAFWebアプリケーションへの攻撃を検知・遮断する
詳しい説明・条件・具体例

暗号化や署名はデータの保護に関わります。ネットワークセキュリティでは、通信の許可・遮断、監視、分離などによって、データが通る経路と接続先を保護します。

IDSはIntrusion Detection System、IPSはIntrusion Prevention System、WAFはWeb Application Firewallです。誤検知や見逃しもあり得るため、ルールの見直しや通知後の対応が欠かせません。WAFもアプリ自体の欠陥の修正を不要にはしません。

対策製品があっても、誤検知、見逃し、ルールの更新がある。通知を受け取るだけで終わらない運用を決めた。

DMZ

公開サーバをDMZへ置く案で、外部との通信と内部への通信を別に制限した。

公開サーバを置く領域を内部ネットワークと分ける。公開サーバの被害が、内部へ広がりにくくする。

20公開サーバから、内部へ自由に入れないようにする
DMZと内部LANを分離。インターネットから公開Webサーバへの必要な通信を許可し、内部LANへの直接の不要な通信は遮断する。DMZから内部への通信も制限する。インターネットDMZ公開Webサーバ内部LAN業務用システム許可した通信DMZと内部も、通信を制限する
詳しい説明・条件・具体例

DMZは、インターネットへ公開するWebサーバやメールサーバなどを配置する、内部ネットワークから分離された領域です。外部との必要な通信を認めながら、内部への影響を制限します。

外部・DMZ・内部の間で、必要な通信だけを許可します。内部LANだから全員・全端末が安全とは限りません。認証、必要最小限の権限、機器の状態の確認、監視も組み合わせます。DMZは何も制限しない「安全な中間地帯」ではありません。

DMZは何でも通してよい領域ではない。葵は、公開する便利さと、内部へ影響を広げない条件を分けて説明した。

対策の担当と通知後の行動が決まった。置いた機器の数ではなく、どこで制限し、どこで気付き、どう対応するかを説明できる構成になった。

ちょっと考えてみよう侵入を見つけて通知するIDSに対し、遮断まで行う仕組みは?考え方をひらく +

IPSです。Webアプリの通信に着目した対策がWAF。役割が重なる部分はあっても、すべて同じ製品・機能として扱わないようにします。

05
稼働後も、約束を守り続けるために

「任せて大丈夫」と言われる、その手前まで

認証、現場の手順、引継ぎを確かめ、試行の結果を読む。

東工場での試行判定と、1か月後の振り返り

試行判定の日。葵は対象を「東工場・標準部品」と確認してから、完了した項目と継続課題を説明した。特注品や他工場への展開は、この判定に含めない。

新卒ITコンサルタント

在庫の二重引当は修正し、同時操作と失敗時の復元を再確認しました。試行に必要な条件は満たしています。継続課題は、取引先の連休による需要変動をまだ検証できていない点です。

小野
生産管理責任者

そこは人が計画を確認する運用で始めます。差が出たら、理由を記録して次の見直しに戻します。

新卒ITコンサルタント

はい。開始の判断は責任者の皆さんへお願いします。止める条件と、既存業務へ戻す手順も、こちらにまとめました。

生体認証・本人拒否率・他人受入率

生体認証の案では、本人を拒否する誤りと、他人を受け入れる誤りを分けて確認した。

本人を拒む誤りと、他人を通す誤りがある。判定を厳しくすると、使いにくさも増えやすい。

21だれを、間違って判定したか
本人拒否率 FRR本人なのに、本人ではないと拒否する割合
他人受入率 FAR他人なのに、本人として受け入れる割合
詳しい説明・条件・具体例

生体認証(バイオメトリクス認証)は、指紋、顔、虹彩、声紋などの身体的特徴や、筆跡、タイピングの癖などの行動的特徴を使う認証です。

判定を厳しくすると、一般に他人を受け入れにくくなる一方、本人も拒否されやすくなります。緩くするとその逆です。方式や環境にも左右されるため、安全性だけでなく、利用できないときの代替手段や復旧手順も考えます。

田中
物流担当

本人なのに入れないと、検品台で困りそうです。

新卒ITコンサルタント

本人拒否率と、他人を受け入れる率の両方を確認します。厳しくすると、本人も使いにくくなる場合があります。

小野
生産管理責任者

読み取れないときの別の手段も、必要ですね。

新卒ITコンサルタント

はい。安全性と使いやすさ、代替手段と復旧をまとめて相談します。

多要素認証

パスワードと秘密の質問を二回聞く案を、葵は多要素とは呼ばなかった。どちらも知識の要素だからだ。

知識・所持・生体という異なる種類の要素を組み合わせる。パスワードを二回聞くだけでは多要素にならない。

22異なる種類の要素を組み合わせる
知識パスワード、PINなど
所持認証用の機器やトークンなど
生体指紋、顔、声紋など
詳しい説明・条件・具体例

多要素認証は、知識・所持・生体のうち、異なる二つ以上の要素を使います。パスワードと秘密の質問は、どちらも知識なので、それだけでは多要素ではありません。認証を二段階に分けることと、要素が二種類あることは別です。

パスワードに加えて所持する機器の認証アプリを使う、といった組合せがあります。方式によってフィッシング耐性などが異なり、端末紛失時の復旧や回復コードの保管も重要です。

小野
生産管理責任者

パスワードの後に秘密の質問も聞けば、二要素になると思っていました。

新卒ITコンサルタント

どちらも知識なので、それだけでは多要素にはなりません。知識、所持、生体の異なる種類を組み合わせます。

田中
物流担当

認証用の機器をなくしたら、誰へ連絡すればいいですか。

新卒ITコンサルタント

回復の手順も決めましょう。認証を強くして、正当な担当者まで戻れなくなる状態は避けたいです。

物理的セキュリティ

検品台に紙が残り、離席した端末は開いたままだった。葵は最初の訪問と同じ場所で、今度は実行できる手順を小野と確認した。

入退室、机の書類、離席時の画面も守る。システムの外側から情報が漏れることもある。

共連れ
正規の入室者の後に続き、権限のない人が無断で入る行為。
アンチパスバック
入退室の履歴を使い、同じ入館証の使い回しなどを防ぐ仕組み。
セキュリティゲート
通過する人数などを制御し、一人ずつの認証・入退室を助ける設備。
クリアデスク
機密文書などを机に放置せず、適切に片付けること。
クリアスクリーン
離席時に画面をロックするなどして、情報ののぞき見や無断操作を防ぐ。
ゾーニング
重要度などに応じて領域を分け、入れる人や接続できる範囲を制限すること。
詳しい説明・条件・具体例
共連れ
正規の入室者の後に続き、権限のない人が無断で入る行為。
アンチパスバック
入室・退室の履歴を整合させ、同じ認証情報の不正な再利用などを制限する仕組み。
セキュリティゲート
通過する人数などを制御し、一人ずつの認証・入退室を助ける設備。
クリアデスク
機密文書などを机に放置せず、適切に片付けること。
クリアスクリーン
離席時の画面ロックなどで、表示情報や端末を無断で使われないようにすること。
ゾーニング
重要度などに応じて領域を分け、入れる人や接続できる範囲を制限すること。
新卒ITコンサルタント

この紙は、使い終えたらどこへ片付けますか。

田中
物流担当

今までは、次の担当へ渡すつもりで、ここへ置いていました。

小野
生産管理責任者

引継ぎ先と保管場所を決めましょう。席を離れた端末のロックも、一緒に確認したいです。

新卒ITコンサルタント

クリアデスク、クリアスクリーンに加え、入退室やゾーニングも、実際の動きで確認します。技術の設定と、ここでの行動をつなぎます。

CSIRT・J-CSIP・J-CRAT

アステラ製作所には情報システム部とCSIRTへの既存の連絡経路がある。葵は今回の運用窓口や委託先からそこへどうつなぐかを確認した。新しい窓口を作るだけで、既存の体制を分断しない。

組織内の事故対応、情報共有、標的型攻撃への支援。事故が起きる前に、連絡先と役割を決める。

CSIRT
組織のセキュリティ事故について、準備・調査・対応などを担うチーム。
J-CSIP
企業などがサイバー攻撃の情報を共有する、IPAの枠組み。
J-CRAT
標的型攻撃の被害などに対応し、支援を行うIPAのサイバーレスキュー隊。
サイバーセキュリティ経営ガイドライン
経営者がリーダーシップを取り、組織として対策を進めるための指針です。
PCI DSS
クレジットカード情報を安全に扱うための、業界のセキュリティ基準です。
詳しい説明・条件・具体例
CSIRT
Computer Security Incident Response Team。組織のセキュリティインシデントに対応する体制・チームです。調整、分析、復旧、再発防止などを担います。
J-CSIP
IPAが運営する、企業などでサイバー攻撃に関する情報を共有し、被害の防止につなげる枠組みです。
J-CRAT
IPAのサイバーレスキュー隊。標的型サイバー攻撃などへの相談・支援を通じ、被害拡大の防止などにつなげます。
サイバーセキュリティ経営ガイドライン
経営者がリーダーシップを取り、組織として対策を進めるための指針です。
PCI DSS
クレジットカード情報を安全に扱うための、業界のセキュリティ基準です。

大企業でも、部門間や運用委託先、サービス提供者、社内責任者などの間で、何が起きたら誰へ連絡するかを決めておきます。事故の最中に、連絡先から探す状態を避けます。

田中
物流担当

不審な画面が出たら、まず自分で原因を探したほうがいいですか。

新卒ITコンサルタント

一人で抱えず、決めた窓口へ、起きたことと時刻を連絡してください。現場で勝手に消したり直したりしない手順も確認しましょう。

井上
開発会社のPM

業務窓口、情報システム部、CSIRT、委託先への連絡をつなぎ、調査や隔離の判断をする担当も明記します。

小野
生産管理責任者

交代勤務の担当にも渡します。連絡先が変わったときに更新する役割まで、引継ぎに入れますね。

セキュリティ・バイ・デザイン

設計初期からの対策、起動時の検証、鍵の保護、侵入を想定した検査、証拠の保全。葵は導入済みかだけでなく、何に使う仕組みかを整理した。

設計の段階から安全性を組み込む。起動時の検証、攻撃を想定した検査、調査できる記録も備える。

セキュリティ・バイ・デザイン
企画・設計の初期から、守るべき情報と必要な対策を組み込む考え方。
デジタルフォレンジックス
デジタルの証拠を保全・解析し、何が起きたかを調べる。
セキュアブート
起動時にソフトウェアの署名などを検証し、信頼するものを起動する仕組み。
ペネトレーションテスト
許可された範囲で攻撃を模し、侵入や被害が起こり得るかを検証する。
耐タンパ性
機器や内部の情報を不正に解析・改変されにくくする性質。
TPM
暗号鍵などを安全に扱い、機器の信頼性を支えるセキュリティ用モジュール。
SECURITY ACTION
中小企業などが情報セキュリティ対策への取組みを自己宣言する制度です。
詳しい説明・条件・具体例
セキュリティ・バイ・デザイン
企画・設計の初期から、守るべき情報と必要な対策を組み込む考え方。
デジタルフォレンジックス
機器などのデジタル証拠を適切に保全・解析し、何が起きたかを調べる技術・活動。
セキュアブート
起動時にソフトウェアの署名などを検証し、信頼するものを起動する仕組み。
ペネトレーションテスト
合意された範囲で攻撃を模した検証を行い、侵入や被害に至る可能性を評価するテスト。
耐タンパ性
機器や内部の情報を不正に解析・改変されにくくする性質。
TPM
Trusted Platform Module。鍵などを保護し、機器の信頼性確認などを支えるセキュリティ機能・モジュール。専用チップとして実装される形などがあります。
SECURITY ACTION
中小企業などが情報セキュリティ対策への取組みを自己宣言する制度です。第三者による安全性の認証とは異なります。

仕組みを導入した事実だけでなく、更新されているか、正しく設定されているか、困ったときに使えるかまで確かめます。安全対策も、作って終わりではありません。

森川
事業部長

対策済みの欄は、ずいぶん埋まりましたね。

新卒ITコンサルタント

はい。ただ、導入したことだけで完了にはしません。起動時の検証や鍵の保護、検査、証拠の保全が、何に役立つかも分けて整理しました。

井上
開発会社のPM

更新と動作の確認を、こちらが担う範囲も明記します。

新卒ITコンサルタント

自己宣言と第三者認証も区別して、対策の限界と、これから確認を続ける責任を引き継ぎます。

業務改革とITコンサルタントの役割

引継ぎを終え、葵は最初の画面案と、今回の課題・判断の記録を並べた。機能だけを見ていた紙の隣に、誰が何を確かめたかの記録が積み重なっている。

現場の困り事を聞き、データ・仕組み・運用をつなぐ。小さく試し、効果と安全性を確かめて広げる。

詳しい説明・条件・具体例

試行運用の日。物流担当の田中は、出荷対象の部品と指示書を照合した。滞留在庫も納期の遅れも、まだ解消したとは言えない。それでも、どの受注に在庫を割り当て、どこで判断が止まったのかを、部門をまたいで確かめられるようになった。

取引先との約束を、運用で確かめる

  1. 必要な情報だけ集め、使える人と目的を決める。
  2. 数量や受注記録を、同時に使っても矛盾しないように扱う。
  3. 止まった場合の連絡、代替業務、復元を確かめる。
  4. 結果を見て、仕事の手順もシステムも改善する。

経営の目的があり、人とお金が動き、その仕事をデータと技術が支えます。数字、アルゴリズム、装置、ソフトウェア、ネットワーク、セキュリティは、別々の暗記項目で終わりません。一つの約束を守るために、つながって働いています。

佐伯
先輩ITコンサルタント

最初の画面案と、今の記録を見比べると、何が変わった?

新卒ITコンサルタント

最初は、機能を説明できれば仕事になると思っていました。今は、誰の何に困っているかを、先に聞きたいです。

佐伯
先輩ITコンサルタント

聞いた後は?

新卒ITコンサルタント

確かめることを分けて、必要な人と判断します。分からないことがなくなったわけではありませんが、相談の仕方は少し分かってきました。

佐伯
先輩ITコンサルタント

次の案件でも、また知らないことに出会うよ。そのたびに、今のように確かめていこう。

試行から一か月。営業の変更情報と工場の出荷指示を、同じ受注番号で追えるようになった。滞留在庫や納期遅れが解消したと結論づけるには、まだ測定を続ける必要がある。

田中
物流担当

変更前の指示を見ていないか、番号と版で確かめられます。迷った操作もメモしたので、次に直す相談ができました。

小野
生産管理責任者

営業と工場で、どちらの数字が正しいかを探す会議が減りました。例外の扱いは、これからも一緒に見直します。

高橋
経理担当

作業時間の変化と、実際に減った費用は分けて追います。在庫や納期への効果も、期間をそろえて評価しましょう。

井上
開発会社のPM

技術の問い合わせは、引継いだ窓口で受けます。注文番号と操作時刻があれば、業務側の記録とログを合わせて調べられます。

森川
事業部長

他の工場へ広げる前に、共通に使える部分と変える部分を整理しましょう。全社改革はこれからですが、次を判断する材料ができました。

帰りの電車で、佐伯が葵に聞いた。

佐伯
先輩ITコンサルタント

最初の訪問に戻れるなら、何を変える?

新卒ITコンサルタント

画面を見せる前に、仕事を見せてくださいとお願いします。それから、誰の何を変えたいのか、変えたあとに何を確かめるのかを一緒に決めたいです。

葵の手帳には、知らない用語がまだ残っていた。その隣には、聞く相手と確かめる方法が書いてある。次の工場で同じ答えが通用するとは限らない。でも、話を始めるための一歩は、もう分かっていた。

ちょっと考えてみようパスワードと秘密の質問は二要素? 指紋と認証用機器の所持は?考え方をひらく +

前者は両方とも知識なので二要素にはなりません。後者は生体と所持という異なる要素です。何回認証したかではなく、何種類の要素を使ったかで考えます。

この章、おつかれさまでした!

次の案件で、最初に聞きたいこと。

知識を使って質問し、確かめ、判断の材料をそろえ、関係者へ説明する。東工場での試行は、全社改革の最初の一歩でした。次の工場で同じ答えが通用するとは限りません。あなたなら、まず誰の仕事から聞いてみますか。

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